あまり自分の経験を語ると自慢話ととる方もありつらいのですが、今日職場であったことです。世界で唯一の知源育のマスターとしての発言だと言うことでお許し願いたい。社長はインド人で、電気物理学の博士号を持つその道の専門家です。ふとしたきっかけから私が先鞭をつけたユタ州立大学のダイナミック・エナジー・ラボとの共同研究が面白い展開を見せ、会社のスタッフも一丸となり電気自動車の次の次の世代のためのダイナミック・ワイヤレス・チャージ・システムを開発実用化しようと、おもちゃのリモコンから始まり、電動スクーターを使ってのシミュレーションの共同実験を計画するため今週ユタ州のあの冬季オリンピックの会場だったパーク・シティーに出かけるのです。そこで道路の電化を推進しようとする関係者の学会があります。世界のいろいろなところから研究者やビジネスや政府の関係者などが集まります。
私は会社を代表してひとりだけ出席します。その学会ではただ聞き手に回りネットワーク作りが主な目的になるのですが、共同研究の相手であり、この学会の企画者でもあるユタ州立大学の人たちに私たちの研究成果を発表するパワーポイントの準備をしていました。自分の研究したデータをまとめおざなりのシンプルなスライドを10枚ほどにまとめて社長に見せると、最初はまあまあ満足していたのですが、彼のフィードバックに従って訂正を加えているうちにあちらからの要求がだんだんエスカレートして行き本格的に手直しが行なわれました。そして、発表の仕方にも注文が出てきました。
日本人や台湾人がよくやっているような、まじめ腐ってドライで面白みのない内容である研究発表ではだめだとお説教が始まったのです。黒澤の映画のように人を引き込むような演出がなくてはいけないと。それで、社長は熱弁を振るって発表にストーリー性を持たせて生き生きとした印象を付け加えようと模範演技をしてくれます。半分自分の練習も兼ねているようなのですが。。。
他の同僚たちも聞こえるようなでっかい声で話しているのですが、以前の自分であれば面子を失いまじめな日本人の自分にそんなダイナミックな演技などできるはずがないと途方にくれるところです。ですが、知源育によりいろいろなプロジェクトで鍛えているせいで、ないと思っている能力でも引き出してきた自信がありますから、ここでもくじけない自分がいました。「社長ありがとうございます。私の脳みそに叩き込んで、演技してみます。」(英語では、ファーストネーム同士で呼び合っていて砕けた会話をしているのですが、日本語で表現すると深刻な感じが出てきてしまいます。)と返事して、パワー・ポイントを早速書き直します。鼻歌交じりにキーを打ち始めます。
自分を新しい役割にどんどん変えていかれる力が出てきていることに驚かされます。六十にもうすぐ手が届く自分にどうしてこんな力が湧いてくるのか不思議です.「可変性」というか教育学の言葉では「陶冶性(とうやせい)」と言いますが、自分を思わない方向に変えていかれる柔軟性と自信です。これは、知源育のプロジェクトをたくさん積み重ねてきた結果であることは間違いありません。
英語では、”You cannot teach an old dog new tricks.”と言う諺がありますが、長年すっかり身につけてしまったことを変えて新しい特徴を身につけることは難しいに違いありません。教育学の人間がエンジニアになり、今度は人を巻き込んで演出できる話術と言うか演技力を身につけるようにという課題が職務上出てきて、社長自ら演技して見せています。実は密かに感じているのですが、社長自ら、学者で生真面目な学者肌を脱皮してダイナミックなカリスマ的存在になろうと一生懸命なのです。私はそれを心からバックアップし、自分もそれを演じようとない力を引き出しています。