イメージから実現へ

だれでもヒラメク時があると思います。しかし,大抵のことは一瞬の夢に終わってしまう可能性があります。頭の中によぎった考えが即実行に移せるのは稀のことです。ほとんどのアイデアはその場で実現させられるものではなく,たくさんのステップを踏んだ上でやっと達成ができることだからです。

知源育の記録が身に付いてくると,アイデアが,それが自分の本質的なことと結びついているものであれば,たとえ夢のまた夢のようなことでさえも書き留めておいて,何度でも復習しながらそれを温め,少しずつ具体的なものにすることができます。知源育を生活に取り入れたことによって,不可能だと思っていたことが何十となく可能になったので,驚くべきことでした。確かにこれは夢実現の仕組みです。

可能性の追究

この半年ぐらい,大学で学生たちが一定のレベルになると自己満足に陥るという問題と取り組んできました。周りを見回すと,至る所で,実は人間というものはその状況に満足するというか,甘んじてしまい,新しいレベルにチャレンジするという気概をもたないということに気づきました。というか,ほとんどの人が,向上心のありそうな人たちも含めて,そういうマンネリ化の傾向があります。ある程度の年齢に達して,既に社会的な成功を修めている人たちの間でさせ,新しい課題に向かって,当初うまくいかないとすぐ匙を投げて,今の自分を変えようとしないという傾向が強くあることを知りました。それも,何百何千という事例を見てきた人の証言で分かったことです。

学生たちに色々な方面で,もっと高いレベルの言語運用能力を目指すように,手を替え品を替えて励まし,支援し,練習を工夫し,互いに教え合うなどのことをやってみました。確かに,こちらにしっかりとした根拠があって,学生の実力の現状を把握して,それを踏まえてチャレンジするのであれば,かなり手応えのある成果が出てきます。こちらに期待し,信念を持ってチャレンジする姿勢がなければ何も起こらないのですから,教えることは無類の役割です。

人間の可能性

自分も含め,わたしたちは人の可能性について過小評価していると思います。もう1年も前になりますが衝撃的な経験がありました。博士課程に進もうとしている学生と言語学習を促進する方法について議論する中で,やる気が十分でない学習者をどうするか話していたのですが,簡単な解決法が見つからないようで,宿題になったのです。そこで色々なとこから知恵を集めていたのですが,知り合いの8歳の娘さんが暇そうにしていたので,冗談半分で「やる気のない人にがんばってもらうにはどうしたらいいかな?」と尋ねたのです。返ってきたのは,「わたしだったらね,その人といっしょにあることをやってあげるよ。そうしてその人が少しできたら,やる気が出てくるよ。」わたしは思わず,「すごくいいアイデアだね。びっくりしたよ。どうしてそんな考えが出てきたの?」と応えたのですが,彼女の説明は,「わたしはいつもクラスの友だちを助けたりしているからね。」

幼い子供たちにもすごい知恵があります。わたしたちだれもが「知源」をもっています。それに力を発揮してもらえれば,わたしたちの活動はもっともっと優れたものになります。それを促進するのが知源育の5原則なのです。

新たな歩み

去年はつらい夏を過ごしました。何十年も経験しなかったような健康状態に数ヶ月も陥ってしまったのです。6月には38°C近くの気温が何度もあり夏に弱いわたしは苦戦していました。しかし,NSF(全米科学財団)に申請する書類作成の担当を任され,机に向かって神経をすり減らしながら準備することを強いられていたのです。さすがに体はそのペースについて行けず,胃の働きが停止してしまい,食べても吐き始めました。わたしにとってはそれは極めて異常な状況で,それまでは3年以上も風邪で1日も仕事を休むことがなかったのです。その状況は小康状態に何度もなりながらも夏中続き,やっと胃の状況が完治した時には,今度は持病である痔が始まり,1ヶ月も出血が止まらなくなってしまいました。

その数ヶ月はまさに予期せぬ混沌の1部でした。日頃から知源育の5つの原則を生きているわたしは,その混沌を心を開いて受けとめて,それに対処する健康についてのプロジェクトを行なっていました。結果は自分の健康についての深い理解が起こり,生活スタイルが根本のところで変わったのです。身の回りが組織されるという副産物は予想できないほどの祝福になりました。

5つの原則

最新の表現で5原則をまとめてみます。英語でです。

  1. Establish Ownership
  2. Enrich Locality
  3. Embrace Chaos
  4. Evolve Cycles
  5. Elevate Reflection

全部Eの文字で始まるように統一してあります。第1原則はやはり不動の位置を占めています。人の存在の核になるところにプロジェクトは基づいていなければなりません。生活をシンプルにして,オーナーシップを確立します。それは絶えざる努力によって起こることです。何が本質なのかを見極め,それを発展させるという姿勢です。第2原則はその核の周りの部分です。それを豊かにすることです。意識とスキルです。自分を取り囲んでいる事柄に無限の可能性を認識する力と,それと上手に対処するスキルを磨くことです。その2つが豊かになる時にまわりにある状況を活用して夢実現が確実に起こっていきます。第3原則は,複雑な人間社会に存在する混沌への対処の仕方です。それは単に複雑であるだけでなく,豊かな混沌であり,果てしない成長の機会が伴っています。それを何の躊躇もなくしっかり抱きしめるのです。第4原則はその中で具体的に歩みを進める方法です。絶え間ない進化。「無理」「無駄」なくとりあえずサイクルを回していく。振り返りの要素を含めると,サイクルはラセン階段を登る動きに変化します。第5原則はそれを「改善の科学」に高める働きです。「記録」「復習」「報告」の3つのモードで振りかえる時に研究者のレンズを通して実践を眺めることになります。

春らしくなっているプロボ

自転車通勤していると自然が身近に感じられます。たぶん,普通の見方では,自動車に乗っているとテクノロジーの力を借りてより便利で,より快適な生活ができていると言いたいところですが,自転車であちこちでかけることを習慣としていると,四角のボックスの中に閉じ込められて,運動不足を強いられ,外界との接触も奪われている不自由な空間でもあるのです。それに反して,自転車での生活は,四季折々の美しい自然に接し,道行く人々とのたくさんの出会いも生まれ,この世に生きているという充実感は上です。

自分の生活が一見限定されているような現実はありませんか?知源育の第2原則を生かして,身の回りの限りない資源に目を向けてみましょう。たくさんの喜びがそこから得られます。

奉仕という美しい営み

人間の世界には不思議な仕組みがあります。世の中は、自分中心の娯楽を促進して、商業主義はその方向に戦略を向けています。しかし、知源育の前提は、それとは逆の方向に進むように奨励します。自分の様々な能力を伸ばす目的は、天の秩序によりよく調和し、同胞によりよく仕えるようになることです。それができれば、成功はひとりでに付いてきます。

知源育を教えるとはまさにそういう営みです。自分のことではなく、その人の望みに従って何かをすることを支援することです。自分の関心ややりたいことを脇において相手のことに意識を向け、相手の視点から物事を見ようとし、相手の抱えている問題を解決しようと一緒にそれと格闘します。面白いことに、そのような活動に従事すればするほど自分の力量がどんどん増していき、自分のやろうとしていた活動までがそれまで以上の速さで実現してしまうのです。

知源育のスキルとは

多数の知源育のプロジェクトをやっていると、いろいろなスキルや見方が養われます。その中の一つは観察力です。私は本来観察力の足りない、注意散漫な夢想家タイプでしたが、具体的な細かいところに目を向けるようになり、観察力が飛躍的に良くなりました。それは、興味がそこに向くからです。それまでは、そういう具体的な部分には関心が薄く、したがってプロジェクトを成功に導く知識や理解に欠けていました。

観察力が増すと、物事の仕組みが速く分かるようになり、それが分かれば分かるほどそれをコントロールすることができるようになるのです。これは1つのことですが、それ以外にたくさんのスキルが身に付いてきます。計画力、人と交渉したり、上手にコミュニケーションする力、物事をパニックにならずに、リラックスして着実に進めていく態度などがあります。

 

生活をスリムにする

知源育の第1原則が生活の中に深く根付くには、継続的など努力が求められますが、義務感で仕方なくする必要はありません。それは楽しい遊び心を使っての活動にすることができるのです。私は日曜日に、やってることの棚卸しをすることにしています。自分のやっていることが自分の本質的なことにつながっているかをチェックし、それぞれの活動がバランスのとれたものになっているかを確認します。一週間の日誌を復習することと重ねてできます。体を動かし、奉仕の活動が入り、自分の学習と、趣味の時間と、本業と、それらよりはるかに優先順位が高いですが長期的な課題である家族のことが入ります。さらに、自分の霊性を高めることも欠かせません。以上のことがバランスよくとれていると生活が活気にあふれ、安定感があって毎日が過ごせます。

様々なプロジェクトを作って、自分の様々な能力を高めることは、そのバランスのとれた生活を土台に進めていくのです。達成するスピードや、どれほど集中するかは、生活のバランスのうえに考慮することですから、無理に速くやって、間もなく行き止まりになってしまうことを避けることができます。コツコツと着実に進めることが鍵になります。

途方もない時期尚早な要求

自分のレベルが初心者なのにその3つも4つも上のレベルのことを依頼されたことはありませんか。そのような時にどのような反応を人はするでしょうか。知源育に生きている人は、それでも試すことを厭いません。と言っても、第1原則がありますし、優先順位の関係で長い間それを行うことはできないかもしれませんし、第4原則のサイクルを進めるテクニックを知っていれば、自分に相応しくないレベルで始めることに抵抗があるはずです。しかし、これがチャンスでもあるのです。

依頼人(例えば身内の者であったり、職場の上司であったり簡単に断れない状況のことを言っています)の希望を考慮して、無理難題にチャレンジします。計画、スピリチュアルクリエーションの部分を丁寧に行います。そして、何らかの実行を試みます。その段階ではっきりした具体的な見通しがでてくるでしょうから、それを持って行って依頼人にそれ以上続けることが意義のある結果を出せるか断念した方が得策か提案できるでしょう。このような経験は極めて難しいことでありながら、たくさんの学びを経験できる機会でもあります。将来自分が伸びていくための種まきの経験でもあることを覚えている必要があります。